花房観音 -Hanabusa Kannon-

情交未遂

あなたの話を聞きたい、あなたのことを知りたい、誰も知らないあなたを、私の言葉で書き残したいーー言葉でまぐわいたいのです

AV監督・カンパニー松尾

君がいるトーキョーなら素敵だ

2015年1月13日   インタビュー:花房観音   写真:木野内哲也   場所:HMJM、劇場版テレクラキャノンボール2013に登場するマンションの屋上にて

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――「パラダイスオブトーキョー」って2005年だからもう9年前になるんですね。

 

「だいぶ前ですよ」

 

――あの作品はまずオーディションがあってそこから女優を選ぶんですが、私が印象に残ってるのは「僕はAVを頑張る娘が苦手だ」というテロップです。

 

「今でもそうです」

 

――あの台詞がすごくしっくりきました。私はAVは好きだけど、全肯定はできないし、今でも「AVを頑張る娘」に対して勝手に痛々しさを感じてしまいます。本人たちからすれば余計なお世話でしょうし、私自身の考えが保守的でモラルに縛られているというのも自覚はしています。

ただそれは私が女で業界の外にいる人間だからそう感じることであって、松尾さんのように長年その業界で食べている人が未だにぶれずにそう思われてるのが不思議でもあるんです。

 

「ぶれないというよりは、AVをどう捉えるかって問題だと思うんですけど、要するに現場で大人数でドラマ物を撮るときに頑張ってもらえない子は困る。だけど俺のやってるのはなるべくカメラを意識せずに、素ではないけど素に近いセックスを撮りたい。AVだから頑張る、AV女優の私を見せたいとアピールされても困る、AVのセックスを観たいんじゃないんだって、そういうことは考えてます」

 

――私、少し前に初めてある撮影現場に行ったんですけど、目の当たりにして、頑張っていやらしい私を演じてる人と、素で感じて気持ちよくなってる人が、こんなにもわかるんだと思ってびっくりしました。編集されたものを観ると、そこまで差を感じないのに、生で現場にいるとあからさまで……。だからこそ演じてる子が、本当に感じていく過程も面白かったけれど、いやらしい私を演じてる人が全く濡れてないのもわかったので、いろいろ考えさせられてしまいました。

 

「AVの9割は頑張る子でできています。というのも、AVはその子の素であったり体験であったりそのものを引き出すのではなくて、あらかじめ決められた設定の中の中で作るのが大半ですから。たとえば男性経験がひとりしかない娘でも、千人斬りの淫乱女を演じなければいけない。そうなると女の子は頑張るしかない」

 

――最近の女優さんは昔と比べて格段に「上手」だと思います。綺麗だし、エロい自分を演じるのが上手い。

 

「上手です、すごく上手」

 

――でも上手過ぎて隙がないから、乗れないんです。

 

「そうなんですよ。でも上手にならざるをえない状況なんです。たとえば監督だって、史上最強の痴女を撮る監督は痴女好きであって欲しいじゃないですか。でも発注されてる現場監督に過ぎない。痴女が好きというよりも、納期が早い監督に仕事が来ます。一週間前にメーカーから電話がきて、空いてますか? 痴女でお願いしますって話ですから。女優さんも明日の仕事は何? ああ、痴女なのねってなります。そういうところですから、AVは」

 

――それが見えてしまって、綺麗で上手いんだけど、じゃあ上手いセックスがエロいかというと、そうじゃないのがもどかしい。なんだかセックスしてても、「エロい私を見て見て、ち○ぽ気持ちいい!」って、男の身体を使ったオナニーを見せられていると感じてしまいます。もちろん、そうじゃなくて、本当にエロい人もたくさんいますけど。

 

「AVの9割は男の妄想を100%叶える理想の女を演じきるものだから、現場を積み重ねれば積み重ねるほどに応用の効く何でもできる子になっていく。適用能力ですね」

 

――不景気で、仕事も欲しいから、そのためには適用していくしかないですね。

 

「それも女優さんの内面ではなくて見た目からのイメージですね。案外、見た目と反対だったりするんですよね。背が高いと痴女をやらされるし、逆に背がちっちゃくてぽわんとした見た目ならロリやれって。ロリだから、実際はその子は経験が多く淫乱であっても、男性経験はひとりにしといてねって。でも実際、ビジュアルと逆の子が多いです」

 

――それはそうですね。ロリっぽい外見の子が淫乱とか、きつい顔の背の高い女が男性経験少ないとか、よくあります。

 

「背が小さい子って気が強い子多いし、背が高い子ってのほほんとしている子が多いような気がするんです。そういう傾向ってやっぱりあると思う。そういう人たちが、見た目に沿って逆を演じてたりする」

 

――基本、AVって男性を興奮させて射精に導くためのものなのでファンタジーだと思います。そういう意味では松尾さんの作品は現実的だから、女の子の好感度を下げるようなところもあるし、萎えさせてしまう部分がある。

 

「俺の中のファンタジーはあるんだけど、どうしてもそうじゃないリアルなものが撮れてしまう。それは撮り方の問題ですね」

 

――松尾さんの作品は一人称、私小説的だと言われています。その方向に行くきっかけが、東良美季さんが、かつての恋人を、実際の自分とのやりとりを再現しながら撮った「オマージュ」という作品だとおっしゃっていましたね。そして松尾さんがAV監督になって、林由美香さんという女性との出会いがあって、作品を通じて彼女に恋をして、その恋心を隠すどころか告白という形にしたのが「硬式ペナス」です。ビデオの中で告白されて、ラブレターならぬ、「ラブビデオ」。宮崎レイコさんの「熟れたボイン」もそうですけど、あれは衝撃でした。

 

「私小説って言葉でさえ知らなかったんですよ。AVを撮りはじめたのが22か23歳のときで、もともとの素養の問題なんでしょうけど、漫画とか音楽のPVしか見たことなあった。20代前半でも文学的な素養があったり映画観てたら違ったんでしょうけど、僕はパッパラパーで、映画観てないから映像のジャンルもしらない。だからカテゴリー的なものも一切無視、無視というかないままに監督になった。ロードムーヴィーって言葉もあとで知りましたね」

 

――松尾さんの作品もですけど、平野さんの「由美香」もすごかった。こんな個人的なことを映像作品にしていいんだってのと、それに、今までみたどんな映画よりも感動したのも。

 

「誰も観てないと思ってた。『硬式ペナス』はまさにラブレターならぬラブビデオ、由美香に気に入られたいためだけにつくったものです」

 

――それが作品になって、私は松尾さんも由美香さんも平野さんも知らないけど、感動しました。私だけじゃなくて、たくさんの人が。

 

「何なんでしょうね。そういうことになるのも予期してないです、本人たちは。初期衝動だけですよ。私小説とかロードムーヴィーとか、知ってたら作れなかったかも。そこにあてはめちゃいますからね。あと会社の環境もあります。ノーチェックでしたから」

 

――安達かおる監督率いる「V&Rプランニング」ですね。松尾さん、バクシーシ山下さんはじめ、外注ですけれど井口昇さん、平野勝之さんと、強烈な作品を生み出してきた会社です。

 

「自分のものは自分で見て納得するものさえできたら誰にも審査はされなかった。まあ、ビデ倫とか審査機関はありましたけど。プロデューサーとか安達さんのチェックはなかった。ADから監督になるのは厳しかったけど、監督になったらノーチェックです。それは特権だって言ってましたね。だから好きなことをやれ、と。ただ抽象的なことはひとつだけ言われてたのは、『こだわりを持て』と。それが若い頃はわかんなくて、ただはぁはぁ言って聞いてただけですね」

 

――そんな自由な環境の中で、松尾さんはわりと個人的な恋愛ぽいものを生み出されて……。

 

「童貞マインドというか一人称からまわり系というか。俺は童貞が長かったし」

 

――初体験もAV女優さんですね。

 

「撮影ではないけれど、そうですね。俺はその人にほのかに恋心を抱いたんですけど、市原(克也)さん(AV監督&男優)も兄弟だって知って、『なんや松尾、お前もやったんか!』とか言われて、そこからガラガラと音が崩れました。そういう人だったんですけどね」

 

――松尾さんって、AVっ子ですよね。初体験が女優さんで、仕事もずっとAVで、その世界から離れたことがない。

 

「コインロッカーベイビーズならぬAVベイビーです」

 

――それにしてはまともだなーって思うんですけど……まともというか感覚が普通というか。

 

「まともじゃないですよ」

 

――価値観というか、染まっちゃってる人いるじゃないですか。私はやっぱり人前でセックスしたり、恋人や好きじゃない男とセックスするのを仕事にしているのって、普通じゃないと思うんですよ。それにリスクが高い。バレて非難されたり、周りを傷つけたりというのがついてくるから、どうしても全肯定はできない。たとえば自分の彼氏彼女がAV出てたら嫌がる人は多いと思う。映像はずっと残るから今、AVに出るのはリスクが高いと思うんですけど、『それの何が悪いの?』みたいに業界の人に言われたことがあります。悪いとかそういう問題ではなくて、人に勧められないし、賞賛もしにくい。女優さんが『AVは立派な仕事です。頑張ります』とか堂々と言われると余計なお世話だと承知しつつ、素直に頑張れとは言えない。そう思わないとやっていけないから思い込もうとしているのか、本当に心の底からそう思っているのかわからないけれど」

 

「いますね、完全肯定してる人、業界っぽい人」

 

――仕事って、どんな職業でも、それを続けていくためにいろんなことを無理やり正当化しないといけない部分はあります。世間から悪いことだって言われている仕事でも、やってる本人は良いことだと信じなきゃいけないときがある。だけど松尾さんは、そういうのを感じない。普通というか、まともというか。

 

「肯定するときもあれば、できないこともあるし、全肯定でもないし全否定でもないです」

 

――それは私も実はそうです。肯定できないにしろ、AVは必要だし、好きだし、AVの世界に惹かれるし、だからいつもうしろめたさや葛藤を持ちながら観ています。それすらなければもっと楽しんで観られるのかなと思いながらもそこから離れられない。

 

 

 

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