――松尾さんて、恋愛に興味ないんですか？　恋愛モードの作品、あんなに上手いのに。

「ないことないないけど、一回失敗しましたから。猫も犬も一回火傷したら近寄らないでしょ」

――そんなことないですよ。火傷しても何度も近寄ってまた傷を負ってる人はたくさんいます。私もそうです。猫か犬以下なのかな……。

　平野（勝之）さんとか作品にもしていますが、痛い目にあっても恋愛を繰り返しているし、二村さん（ＡＶ監督・二村ヒトシ）みたいにそういうことばっかり考えて本も出してる人もいます。松尾さんは本当にいつも飄々としているなと。松尾さん見てたら、ほんとあの辺の人と正反対だなって思う。

「人間欲が強いんじゃないじゃないかな。俺にはそれはない。二村さんの欲の強さとかすごいなって会う度に思うし、平野さんにしても、そういう人たちに囲まれて、自分がないんだなっていうのが物足りなさでもあるけど、それはそれで武器です。あまりにも欲深い、こだわりが強い、発想が人並み以上の人たちってムラがあるのを肌で感じるから。今でもそうだけどせめてムラのない自分を継続させて、そういう人たちの接着剤というか、そういう人たちの間に入ってずっといられたらいいなというのはＶ＆Ｒ時代からありました。これからもＨＭＪＭを維持することによってそれができたらいいなと思う。Ｖ＆Ｒ時代から、平野さんとか山ちゃんとか安達さんとか周りが過激すぎた。頭おかしいけど、あこがれているんです。山下のことなんか、大好きですもん」

――テレキャノ２０１３で、山下さんとの名場面がありましたね、あの握手。

「山下のことは作品も人間も大好き。テレキャノ2013の山下のスーパースローモーションとかは最大級の山下LOVEですよ。ＡＶ監督である以上、普段、男は書けないからたまに何年か一度にテレキャノで男を描くのは楽しい」

――松尾さん、結構、女性に対してひどいじゃないですか、冷たいし、身体さえよければあとどうでもいいとか。

「普通でしょ」

――普通ですけど、ひどい人に見えない。誰もカンパニー松尾をひどい男だって言わない。

「だってあんまりにもひどいのは俺、調整してるもん。イメージシーンとかで、君は可愛い可愛いって」

――松尾さんは、人を酔わせるのが本当に上手い。パラダイスオブトーキョーなんかは特に。あれはうますぎて、ズルいなとか思っちゃう。

「自分も酔ってるんですよ。素じゃ書けないテロップ書いてる。あとで見返したら、うわーってなります」

――この前、久しぶりにパラダイスオブトーキョー見返して、テロップを書き起こしたんですよ。

「ダメですよ！　そんなことしちゃ！　恥ずかしいから！　あれ素面じゃ書けないです。俺は酒飲まないけど、アドレナリンは編集中に出て酔ってる。だからあの作業は、最後にとっておくんです。これで酔っぱらおう、酔っぱらいたいって。あれ作ってるときの快感で未だに何十年続けてる。一番楽しい。人といるときよりも楽しいから、家に帰らない。最高のディナーのために会社にいる。世界が終わってもパソコンの前で作業したい。幸せな人生です」

――松尾さんのこれから……とか聞くのも野暮ですね。今までどおり、ですね。

「そうです。５年後、１０年後がわかってたら楽しくないしおもしろくないし、先のことなんてわかんなし。奥さんとの将来的なビジョンはあります。でも監督としてのビジョンはない」

「ＡＶ監督やってると、映画監督と違ってテーマなんてなくて、来たものを打つ。次から次への脚本が舞い込んで女優さん選び放題なんて映画監督、いないでしょ。ＡＶ監督って日常は本当に楽でプロダクションが松尾さん撮ってくださいって言ってくる。会社にいるだけでセッティングされて、波はあるけどさ、これ撮りたい、やりたいって女が出てきて、ひとつひとつ打っておくりびとのように送り出す。悪いふうには見せたくない、どんな子でもそう。全肯定ではないけど、送り出して、その子の代表作を撮りたい。お客さんのためにとまでは思ってないけれど、観てくれる人たちもいるので、そこに俺のブランドを信用して観てくれる人たちばかりだから、指名買いだから、それをちゃんと満足はさせたい。

俺よく言うんですけど、天才の人たちって２回同じことをやりたがらない。でも俺は演歌っぽいというか、同じ歌をずっと歌える。キャンペーンガールなんて１０何年、未だにあの衣装着せたい。それを意図的にやれる自分だから、食えてる。作品についても歴史に名を残すとか考えてたら、レオタードとか撮れない。自然にそれができたらお金を産むんですよ、ある程度。その余剰でおもしろいことがしたいから、自分はその位置にいる。それが役割としてまわってきている気はする」

――テレキャノで初めて松尾さんを知った人は多いと思います。その人たちに何か伝えたいことはありますか。

「できたらＡＶも監督で観て欲しい。ＡＶてのはジャンルなんで、それだけで敬遠しちゃうと思うんですけど、あえて言うと俺たちがやってるのはＡＶを利用してドキュメンタリーの面白さを伝えているのと、あとはいわゆるＡＶの中でも女の子そのものの良さは伝えようとしている。テレキャノのヒットで、ＡＶって面白いものもあるんだなってのが頭の中にちょっと入ってくれたら嬉しいですね」

東良美季の1993年10月のインタビューで、カンパニー松尾はこう答えている。

「俺はこれでいいなぁ。俺はこのぐらいの、アダルトの、社会の底辺でウダウダやってる方がいいですよ。メジャー意識なんて犬にでも食われろ(笑)。だってアダルトの方が面白いもん。ビデオ・クリップよりもセックスの方が面白いよ、絶対。確かにさ、昔は何かあったんですよね、ＡＶでこういうことを言いたいってのが。ビデオ・クリップふうに綺麗にカッコよく見せたいとか、ドラマの中でこういう感情を表現してみたい、とか。だけどそうじゃないんだよね、そんなものよりもセックスそのものが素晴らしくてバカバカしくて面白いンですよ」

（『アダルトビデオジェネレーション』メディアワークス・刊）

　カンパニー松尾は、変わらない。

　今も昔も。

　カンパニー松尾に限らず、私がＡＶの世界の人に問いかけずにはいられない「あなたはなぜここにいるんですか」という問いを、カンパニー松尾自身が「初めて自分から好きといえた人」林由美香に問いかけていることに、久しぶりに「硬式ペナス」を観て気づいた。

「君は何故ＡＶに出るんだ？」

　私はなぜＡＶを観るのだろう。なぜ傷口である性を描くのだろう。なぜそこから離れられないのだろう。なぜセックスの世界の人に惹かれてしまうのだろう。

　答えなど、もうとっくに出ているではないか。

　素晴らしくてバカバカしくて面白いから。

　だから、好き。

　２０代の頃に、平野勝之やカンパニー松尾の「ラブレター」に出会い、彼らに羨望し、私はずっと私の前を走るＡＶ監督たちを追ってきた。十数年経った今でも追い続けている。

　私が感動した「恋文」を、私はまだ書けずにいる。ずっと小説を書き続けて本も出しているけれど、まだまだあの人たちの足元にも及ばないのだ。満足したことなど一度もない。いつも不安で自信がない。つらくてしんどくて泣きながら書いている。けれど私の前に走り続けている人たちがいる限り、私は追いかけ続けることができる。転んで失敗して傷ついても、まだ、彼らがいるから――。

　カンパニー松尾が影響を受けた東良美季が、実際に好きだった人を撮った「オマージュ」という作品について、東良美季自身はこう書いている。

「――僕は『ビデオ・ザ・ワールド』に監督日記と称して彼女に対する想いをくどくど書き、そのあげくに開き直って、まるで彼女に対するラヴレターみたいなアダルトビデオを撮った。結果、良い作品だと褒めてくれたひともいたし、『恥ずかしくて見ていられねえよ』と笑う人もいた。こんなものはＡＶとして成立しないよというひともいたし、『寒気がする』と拒否するひともいたけど、僕にとってそんなことはどうだってよかった。僕にはそれしか撮れなかったし、僕が撮らなくてはならなかったのはそれだったし、僕が撮るべき作品はそれだった」

（『アダルトビデオジェネレーション』メディアワークス・刊）

　それしか撮れないし、撮らなくてはならなかったのはそれだったし、撮るべき作品はそれだった――その言葉が、創作したいという衝動の全てだ。

　なんだ、とっくに答えなんか出ているではないか。