怪談社 ~あやしの国の鬼たち~
怪談社 ~あやしの国の鬼たち~
2016年9月30日 インタビュー:花房観音 写真:花房観音 場所:大阪・十三にて
紗那「これは――書いて欲しいことなんやけど――王には、なれないねん、王様には。みんなそれは認識するべきや。王様にはなれへんねんけど、そのジャンルを上にあげる歯車になることはできる。これは理解して欲しい。我が我がって、自分が王になろうとしたって、なれない。歯車になるべき。歯車だったら、なれるから。こんな我が我がしてる俺が言うんだから、間違いないでしょ。王になるのは、無理。あるところでは、実力や運が働いたりすることはあるんだけど、そういう考えはダメやねん。天下とったる、王になるんだって考えは、受け入れられがたい。でも怪談というジャンルを上にあげる歯車には簡単になれる。人生の時間と金をつかって――それが努力でしょ」
紙舞「僕はね、怖い話を聞くと、語りたくて語りたくてしょうがなくなるんです。語ることが、気持ちがいい。平山夢明さんのインタビューで気に入った台詞があって、『怪談なんだから読んだ人を殺す気でやらなきゃいけない』って。むっちゃ怖かった、でも楽しかったって思ってもらえたらいい」
こうして一緒に酒を飲み話していると、ふたりとも気のいい兄ちゃんに過ぎない。
けれど、舞台にあがると、彼らは「在らざるもの」に豹変する。
私が「大江能楽堂の雰囲気は、すごくいいですね。なんなんでしょうね」と聞くと紗那は、こう答えた。
――怨念ですよ。呪い、普通に考えたら気持ちが悪い話だけど、そのじめっとした感じがいい――
そこに現れたふたりの色香漂う男たち――その場所の空気を一変させるほどの迫力ある語りと、艶かしい声を響かせ観客を怪異の世界に引きずりこむ紙舞と、いたずらな表情で唇に毒を浮かべ「わるいおとこ」の色香を全身に纏う紗那――彼らがあやしの話をかたりはじめると、この国が出来た頃から、人の誕生と共にこの世にうごめく「魔」が一斉に姿を現すかのような。
ああ、彼らは――鬼なのだ。
邪しきもの、神や霊の眷属、その色香で人を惑わし心を喰らい幽鬼のもとへと導く、鬼だ。
欲望の町に住む鬼たち――彼らに一度、魂を喰われたものは、また再び自らを差し出さずにはいられない。
そうして、またひとびとは、「怪談社」のもとへ足を運ぶ。
怖くて妖しいものを纏わりつかせ、魂を喰らう鬼のもとへ――。
*このインタビューは2012年にメンズナウにUPされたものです。