花房観音 -Hanabusa Kannon-

情交未遂

あなたの話を聞きたい、あなたのことを知りたい、誰も知らないあなたを、私の言葉で書き残したいーー言葉でまぐわいたいのです

AV男優・森林原人

セックスでしか伝えられない

2014年4月20日   インタビュー:花房観音   写真:木野内哲也   場所:渋谷道玄坂のラブホテルにて

 

――男優になる際に、たとえば恋人に嫌われるとか、結婚に支障があるとか考えませんでした?

 

「考えなかったですね。人前で裸になるということの重大さを僕なりに意識した上でしたから。やけくそだったけど、覚悟って言うか、その先まで考えてない。バレるバレないの問題がまずあって、それと女優に会える、裸の女が見られる、気持ちよくなれる……この天秤ですよね。その先の家族を悲しませるとか結婚できないとか、そこまでは一切考えていませんでした」

 

――親御さんは、ご存じなんですか?

 

「男優をはじめて2年経った頃に話しました。学生時代は実家住まいで、大学に行ってるふりをして現場に行ってたんです。男優をはじめて3ヶ月目ぐらいから、ほぼ毎日仕事がありました。汁男優だったり、ADだったり……何でもいいから現場に行きたかったんですよ。

 1日もらえて1万円とかだけど、月に20、25日も働いたら、初任給以上になる。大学生からしたら十分に大金です。バレるバレないも忘れて浮かれていました。女の人の裸を毎日見られて、お金ももらえるんですから。

 でも2年後に、大学から出席日数が足りないという連絡が親にきて、お前、何してるんだって聞かれたんですね。僕としたら、2年間楽しかったし、自信もついたから自分から話しました。でもその前に、親にカミングアウトしようと思うんですって、先輩に話したら、一般人が心配することは決まってる。まず病気のこと、借金の有無、ヤクザ、ドラッグ、将来性――この5項目だと言われて、これをひとつひとつ親に説明したんです。

 病気は検査を受けているし、借金もない。ちゃんとした企業がやっているし、薬も関係ない。将来性の問題なんですけど、そこは自分の理屈で、僕は家族が好きで親に感謝して、生まれ変わっても自分の親から生まれたいと思っているけど、22歳で稼いでるし、いち社会人としていっぱしでやっていけるって意識があったから、今まで育ててくれたのは感謝しているけれど、お父さんお母さんを喜ばせて納得させるだけの人生じゃない、自分の人生は自分で決断していきたいって言いました。

 でも親からしたら、だからってAV男優やることないでしょ、他に選択肢はないのって。でも僕は、エロいことがしたいんですよね。その頃には、女の人の裸が見られるってだけじゃなくて、ギャラも3万円ぐらいになっていたので、責任感や仕事としての達成感も芽生えてきましたからね」

 

――その達成感や責任感がプロ意識ですね。

 

「監督に、こういうカラミをしてくれ、こういうシーンをつくってくれと言われて、それに応えられた達成感。あとは射精の気持ちよさもあって、それが途中ごちゃごちゃになるんですけど、そういう状態が中堅かな。自分が気持ちがよかったとき、いい射精までいったとき、いいセックスができたとき……でもそこは仕事としての達成感と射精の達成感は別物で、それに気づくのがベテランだと思うんです。自分が気持ちよかったとしても、いいセックスしたとしても、監督が求めるセックスになってなかったら、駄目なカラミです。自分が気持ちよくても、女の人が置いてけぼりにされていたら、駄目なセックス。

 やっぱりセックスはコミュニケーションなので、具体的に言えば、女の人って温度が上がるのが遅い。男は急激に上がり急激に下がる。そういうのをバランスよく一緒に高めていけたら一番いい。でも、いろんな現場で求められることはそれぞれ違いますから、自分的にいいセックスをして、女の人からしてもいいセックスをしても、監督からしたら、『ここではハメしろ(結合部)が見たいだけ』って言われたらアウトです。このバランスがわかってくるのもベテランだと思うんですよ」

 

――親御さんは、森林さんの説明を聞いて納得されたんですか。

 

「納得しませんでした。でも、親も親なりに考えて、25歳までにやめろ、5年間やれば十分でしょ、と。それと、今、稼いでるのはわかったから、何か違うことをはじめるために貯金をしろ、と。親としては、残り3年間が我慢の限界だったんでしょうね。息子がAV男優だなんて、誰にも言えない。そんな悩みを抱えていくのはあと3年が限界だと。

 実際に25歳になって、いつやめるのと聞かれて、もうちょっとだけと伸ばして、30歳目前になったら僕も10年目が見えてきて、10年やったら、取り返しがつかないな……取り返すつもりもないんですけど。でも周りが社会人になるなか、スタートダッシュは早かったんですよ。大学中退してひとり暮らしして、それなりに裕福だったし、周りが初任給少ねーよって愚痴ってるなか余裕があった。

 でも30歳ぐらいになると、周りも結婚して子供もいて将来が見えてくる。彼らは逆に10年後、20年後が見えるけど、僕は10年後が見えない。で、40歳ぐらいの男優さんで仕事が無くなってる人もいるから、これはヤバいなと思って、一回、専門学校に入ったんですよ、もともと洋服が好きなんで、服飾の。昼間は男優して、夜は学校に通って卒業したんですが、学校で授業受けてる間、頭の中はAVのことでいっぱいなんですね。明日はどの現場かなとか……何年やっても、飽きないんです」

 

――私、この前、初めてAVの現場に行って、代々木さんの現場だったこともあるけど、エネルギー吸い取られたんです。観てるだけなのに、すごく疲れてしまった。でも……魔力があると思いました。もし自分が若かったら、制作側として、そのままこの業界に飛び込んだかもしれない、と。それぐらい、惹きつけられました。

 

「僕もセックスの仕事して疲れたり、セックスを嫌いになることがあるんです。相性の悪い女優とするときとかもあるから。でも、次に良いセックスをしたら、全部帳消しになるんですよ。代々木さんとかも、つらいことがあって嫌になっても、次に良いセックスを撮って帳消しになって、その繰り返しで続けてこられたんじゃないか、と。疲れたな、嫌だなって思っても、また良いことがあるんじゃないかって」

 

――普通に生きてたら、経験できないですよね。私は、森林さんもそうなんですけど、男優さんたちって、他の仕事でも十分通用するのに、どうしてこんなにリスクの大きい世界にいるんだろうって考えてしまうんです。でも、それはこの魔力かな、って思いました。特に、この前、私が見学した代々木さんの現場で驚いたのは、こんなに女の人の嘘って、バレるんだな、と。自分もそうですけど、女の人は演技や嘘を当たり前に使って、男の人を騙したって思っているけれど、そうじゃないんだって、思ったんです。編集されたAVを観てるだけでは見えないものが、現場にいると見えてしまう。こんなにも、セックスって、人をあからさまにするんだって思いました。なんて、正直なもんなのだろうって。

 

「でも、これは代々木さんとも話したことがあるんですが、AVってどこまでが許されるのかなって思うんです。裸になることのギャラなのか、全部内面までさらけだすことのギャラなのか。代々木さんは内面に迫ってくる、内面からエロさを引き出す。でも引き出されたくない人もいて、そういう人もやることはやるわけですよ。だから、この前の現場では僕もいろいろ考えさせられましたね」

 

――代々木さん自身も「俺のはヌけないって言われる」っておっしゃったのを聞いたことがあるんですが、内面に迫るからこそ、確かにいろいろ考えてしまわざるをえなくて、そういうAVを苦手な人もいます。

 

「でも代々木組に出演して、回数を重ねることにより、セックスの本質、代々木さんがいつも言う、目を見て言葉にする力の大きさってのもわかってきた。好きって言葉を口にすることにより、好きって感情が加速する。無言でやってるよりも目を見ることの意味だとか。ただそれを唯一の正解ではないとは思います。正解はひとつじゃないから」

 

――そうですね。たとえばレイプのAVやSMも、私はそこにエロさを感じます。暴力的で一方的なセックスだからこそ、そそられもします。

 

 

森さん⑤

 

 

 

 

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