花房観音 -Hanabusa Kannon-

情交未遂

あなたの話を聞きたい、あなたのことを知りたい、誰も知らないあなたを、私の言葉で書き残したいーー言葉でまぐわいたいのです

AV監督・カンパニー松尾

君がいるトーキョーなら素敵だ

2015年1月13日   インタビュー:花房観音   写真:木野内哲也   場所:HMJM、劇場版テレクラキャノンボール2013に登場するマンションの屋上にて

 

――AV監督を辞めようと思ったことはないんですか。

 

「V&Rを辞めるときに思いましたけど、あとは全然ないです」

 

――昔のインタビューを拝見すると、年をとったらカレー屋をやるとかおっしゃってますね。

 

「俺が27、8歳ぐらいの時かな、安達さんにお前はずっと会社に残ってくれるのか的なニュアンスで話をされたので、ないです、一生いることはないと伝えました。30歳でひとりだちしようという気持ちがあったから。安達さんに、『わかった。だけどお前は重要なポジションにいるから必ず一年前は言ってくれ』と言われて、29歳のときに伝えて30歳で退職しました。そのときに安達さんに『何をするんだ』と聞かれて『カレー屋になりたい』って言っちゃった。でもいざ30歳になって、今からカレー屋修行して十年後に店出したとしても、俺は40歳。そこからが長い。小倉に好きな店があって、修行するならそこだと思ってたんですけど……小倉の本屋で月に一度『ビデオ・ザ・ワールド』を買うのが楽しみで、あいつら頑張ってんな、とか言いながら」

 

――「俺、昔はこのビデオ・ザ・ワールドの年間ベストテンで1位をとったことあるんだよな」とか言いながらカレーを食べてる。

 

「そうそう。そんなの想像すると嫌になっちゃったし、まだ早くねぇかと思った。山下や浜田(浜田一喜・カメラマン&HMJM社長)と別れるのもつらい、そこまでふっきれてない。そんなときに山下が倒れてラインナップに穴が開いたからって呼び出されて、辞めたところで申し訳ないんだけど、撮ってくれないかと頼まれた。実は山下は倒れてうちにいたんです。それで俺が会社行っているという変な状況で」

 

――山下さんは、どうして倒れたんですか。

 

「失恋です。失恋のショックで2、3週間会社行けない、その頃はまだそういう男だったんです」

 

――え……なんて繊細な。あんな過激で暴力的でアナーキーな作品を撮る人なのに……。

 

「その反面なんでしょうけど、弱いんです。俺んちに任天堂のマリオカートとかゲームを持ち込んでやってる。山下の代りに俺は一本撮ってフリーとしての実績を作っちゃった。請求書買ってハンコ押してカメラも買わざるをえない、携帯電話も。どんどんフリーの道具がそろっちゃって、口座も開いた。ただ北海道にはどうしても行きたかったんだけど、それを話すと太田出版の北尾さんに写真撮ってきてって言われて、会社からも一本撮ってと言われて結局仕事になっちゃった」

 

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――私、平野勝之さんの「監督失格」で、印象的だったのは、由美香さんが亡くなってそれを平野さんが発見して、連絡を受けた松尾さんがそこに来て……運び出される様子とか、雨の中『由美香が死にました』と言いながら自分を撮る松尾さんの映像があります。あの映画についての対談で知ったりましたけど、あれは松尾さんのカメラではなくて、平野さんのカメラだったんですね」

 

「そうです。連絡が来て行ったけれど、さすがに動揺してカメラを忘れてしまった。平野さんが路上に座りこんでて、『平野さん、カメラどこ、テープどこ?』って聞いて、指さされたカメラを持ってテープチェンジして、俺があの状況を撮りました」

 

――それを知ったときに、言葉は悪いかもしれませんが、キチガイだって思ったんです。撮ることに憑りつかれていると。かつて好きだった、今でも友人である人の死の現場に行き、まずカメラを回すという行為が。この人たち、「撮る」ことにとり憑かれている。こわいと思うと同時に、すごい、本物だと思った。

 

「そうでしょうね。発表しようなんてもちろん考えてなくて、ただ撮らなきゃと思ったんです。僕らからしたら自然な行為なんですよ」

 

――泣いてる自分の顔も撮ってましたね。

 

「あれ自意識過剰ですよね。『私を女優にしてください』シリーズとかでやってた自分にカメラを向けるのを封印してるはずが反射的にやってしまった。ああいう反射神経は僕とか平野さんとかハンディカムの人たちだからこそです。普通のカメラマンは自分の顔を撮れないですしね。でも僕らは自由自在にカメラマンが180度手首をまわして自分をおさめることができる」

 

――「私を女優にしてください AGAIN11」で、お父さんの死を撮られたのも反射神経ですか? それとも父親の死を映像として残したいと思って撮ったんですか。

 

「考えてやってるわけじゃないです。ただ父親のときはちょうど平野さんの『監督失格』の試写があって、平野さんが苦しんでる姿を見て、俺も目の前に死に近づいている存在があって、出すか出せないかわかんないけどやんなきゃいけないという衝動にかられました。でもその前から、ちょいちょい撮ってました。深い意味もないし、記録とかそんな大げさな魂はないんです。そもそも僕の撮影自体が大げさなものを極端に嫌って、半径5m以内ですから。親父もそれですね、半径5m以内。人の親父を撮ろうとは思わない。俺の半径5m以内、親父、奥さん、おふくろ、そういうところはカメラを向けざるをえないですね、今の俺のやり方だと」

 

――個人的な恋愛感情であったり家族であったり、そういうものを撮ることにより非難されたり傷つけたらどうしようとか考えたりしません?

 

「考えない。非難されたこともない。AV監督ってラッキーなんですよ。あんまり非難されないんですね、映画だったら批評の矢面に立たされたりするけど、AVは批評が成り立ってないから。ビデオ・ザ・ワールドがあった頃はまだうっすらありましたけど」

 

――それでもかなり狭い世界の話ですしね。女の人から怒られたこともないんですか? かなり正直に、女性の良いところだけではなくて悪いところも見せてる部分もあるので……。

 

「見せてないもんね」

 

――見せたくない?

 

「松江(哲明)なんかは、撮った人みんなに見てもらいたい、関わった人がみんな幸せになってもらいたいとか言うんだけど、AV野郎の俺の中ではないですね。撮った人を傷つけるかもしれないけど、そこはちょっどドライなんでしょう。撮ったあとの関係性を考えたりとか、被写体に対して媚びを売るようなことはしたくない。結果、喧嘩になってもしょうがないし、問題になったら争うことはしかたがない。自分は自分のやり方でやって相手がどう思ったかっていうのは僕との違いの問題。そこは逃げもせず相手にするし話し合いもする。その辺はV&Rという会社にいた側面が強いかもしれません。問題作だらけでしたからね」

 

――確かに、バクシーシ山下さんの「女犯」は人権団体から抗議が来て社会問題になりましたし、幾つか発禁作品も撮られてます。

 たとえば身近な人に、自分の作品を観て欲しいというのもありませんか? AVに限らず映画監督でも自分の奥さんや恋人には自分の作品を観て欲しい褒めて欲しいという人は知り合いにいます。あと、自分の作品のファンの子を、理解してくれるのが嬉しくて手を出しちゃうとか。

 

「ないない。僕は真逆。自分の作品をいいと言ってくれる女には全く興味が無い、はっきり言うと苦手です」

 

――え、そうなんですか。

 

「僕の対象は、AVや僕のことを知らないで、ただふわっとたまたまAV業界に紛れ込んでしまったOL」

 

――OL好きですよね。

 

「OLってのはもののたとえですけどね、OLっておかしいんですよ、俺にとって。性を隠してるから」

 

――普通に会社行って真面目に働いているOLのほうが、実はすごいことしていますよね。

 

「そっちのほうがエロいでしょ。性に対してオープンな人よりも。OLに限らず女くさい人が好きなんです。着飾ったり努力したり、そのために無理している姿とか見ると愛おしくなります。自分と違う人が好きなんです、他人が。自分の作品を好きな人って、似ちゃうでしょ。女の人のほうが感受性が強いからもっと似ちゃう」

 

――でも、ファンが「抱いてくれー」とか言ってきません? 松尾さんに抱かれたい女はたくさんいると思うんですが。

 

「ないない」

 

――ファンが行列作ってると思ってました。私もいじめられたいー、みたいな。

 

「今までモテたことないもん、俺」

 

――ファンとやったことない?

 

「ないない」

 

――でもそれもわかる。松尾さんて隙がない。ヤレなさそうな雰囲気が漂っている。

 

「でしょ、隙つくらないもん。だから寄ってこない。俺は嫌なの、俺が求めてるターゲットじゃない。それに俺は本当にひどいから、自分のひどさをわかってるから巻き込みたくないんです。貪るようにセックスして、そのあと平気で自分のことしか考えてない男ですから」

 

――だいたい、男の人、そんなもんじゃないですか? それでも好きとか愛してるって言って必要として女の心を引きずり込む。自分のことしか考えてなくても、そうじゃないふりするし。

 

「後悔したこともあるんです。仕事先で知り合った普通の子とそうなって、俺も悪い男だから好きだよとか言っちゃったら、その子が苦しむわけじゃないですか。その姿を見たときに、言い方が偉そうに聞こえるかもしれないけど、俺はいっぱいセックスしてて、そういう意味ではセックスの世界では空手家でいうと有段者なんですよ。その力をストリートで発揮して憂さが晴れるかというと違う。後悔するんですよ、拳を使ってしまったことに。撮影でセックスばかりしてるから、正直言って、女の人と喋るだけでどこを攻めたらいいかわかるし、この人にはいくら撃って出ても通用しないから止めようという判断もできる。プロだから。一回、真面目な子にダメージを与えて、不倫てこうなっちゃうんだなって、それは後悔してます。俺の拳は俺の世界の中で発揮するべきで、一般社会では使ってはいけないって。彼女も苦しんでたし、俺もつらかった」

 

――それでもやる人は、やりますよね。

 

「それはあれじゃないですか、女が好きなんですよ。俺はそもそも女好きじゃない。オナニーとセックスは好きだけど」

 

――ああ、そうですね。松尾さんは確かに女好きではないですね。男の仲間と何かやってるほうが楽しそう。それがまさにテレクラキャノンボールですけど。

 

 

「育ちの問題かもしれません。初体験がAVだし、勝手に自分はそういう男だからって思っています。撮影という前提があってセックスするので、一般的な恋愛をしていない。そういう感情の機微をセックスに持ち込まないってことをあまりにもやり続けていると、変なたとえですけど、特殊部隊にジャングルの中で育てられたら、ここをこういうふうにしたら、ひとつきでどこを攻めたら死ぬかってのを最短距離で教わっている。女の人に、こういうふうに持っていけばセックスできるって自分の身体が動いちゃう。そういう男なんです。特殊部隊が人を殺すのに迷いはないんですよ。依頼されて殺す場合もあるし、自分でこの人を殺そうと思っても、一直線にいける。感情ではない。おそろしい男、と、言いつつロボットじゃない、特殊部隊なりに気持ちはある。たまに悪い癖がでて、一直線に殺してるときありますよ、キャンペーンガールシリーズとか家庭教師シリーズとか、ありえないほどに一直線」

 

――松尾さんは私小説風なのもありつつ、そうやってエロ一直線の作品や、他社で有名単体女優さんも撮られてますよね。

 

「プロの格闘家、殺し屋なんですよ。どんな方でも相手できる。逆に言うと特殊部隊育ちなので一般の方とはないです。素人を自分から口説いてやったのはひとりだけですね。飲み会でたまたま知り合った人」

 

 

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