花房観音 -Hanabusa Kannon-

情交未遂

あなたの話を聞きたい、あなたのことを知りたい、誰も知らないあなたを、私の言葉で書き残したいーー言葉でまぐわいたいのです

AV男優・森林原人

セックスでしか伝えられない

2014年4月20日   インタビュー:花房観音   写真:木野内哲也   場所:渋谷道玄坂のラブホテルにて

 

 

 少し前、初めてアダルトビデオの現場に行った。代々木忠監督に頼んで、私の人生を変えたと言っても過言ではない「ザ・面接」の現場を見学させてくださいと頼んだ。

 それまで機会がなかったのは、怖くて避けていたからだ。性の現場を目の当たりにして、自分の中で何かが崩壊し溢れることを、この後に及んで怖れていた。

 撮影が終わり、性の饗宴を目の当たりにして私はひどく疲れた。

 代々木監督に「どうだった?」と聞かれて、「見てるだけなのに、ものすごく疲れました。男優さんとかスタッフの方たちとか、すごいですね。見学だけでこんなに疲労してるのに、実際に仕事にして関わってるのって……」と私は答えた。

 代々木忠監督は、あの優しげな瞳で、こう言った。

 

「俺もね、何度もやめようと思ったよ。しんどいもん。でも、やめられないんだよね。あなたもね、これだけ本を書いて……きっとあなたは満たされてないんだよね。俺もそうなんだよ、だからやめられない。これはもう、我々の、業だよね」

 

 その時にわかったのは、私が性を、代々木忠という人を追い続けるのは、私自身の抱えた底の見えない深い欠乏を、性の探究者・代々木忠という人に見ているからなのだ。

 満たされない――その通りだ。満たされなさというのは、欠乏だ。

 それを埋めるために、私は性を探り、性を描いてる。

 

 以前、メンズナウというサイトに「関西エロ名鑑」というインタビューを連載していた。アダルトサイトであるにも関わらず、たくさんの方々が登場してくださり、何より聞き手である私自身が得るものが大きかった。私自身が忙しくなったので連載を休止したのだが、誰かに話を聞いて、文章にしたいとはずっと思っていた。

 どこかの媒体に営業をかけようかとも思ったが、締切無しに自由に書けて多くの人に読んでもらえるのは、自身のサイトでするしかないと、こうして何のくくりもなく、私が会いたい人に会って話を聞こうと思った。

 

「情交未遂」――このサイトのタイトルは、セックスをしてしまうよりも、セックスしたくてできない、もしくは、セックスする寸前、セックスをしようとしてできなかった関係がこの世で一番いやらしい――求める気持ちがありながら「未遂」になってしまい、その行き場のない欲望が吹き溜まる様こそが濃密ではないか――そんなことを考えて浮かんだ言葉だ。

 肉体ではなく、言葉を交わすことにより、相手に近づいて、深く知る――言葉でまぐわっていく。

 私に衝撃を与えた代々木忠監督は、くりかえし「目を見てセックスをしろ」と言う。目は正直だから、嘘を吐かないから、目を見て「好き」と口に出せば、心もつながれるから、と。

 まぐわう――という言葉は「目合」だ。目を合わせて情交することが、まぐわいなのだ。

 私自身の性への得体の知れぬ渇望のままに――言葉をまぐわせよう。

 

 初めに話を聞きたいと思ったのが、代々木忠監督「ザ・面接」のレギュラーでもあるAV男優の森林原人だ。もりばやしげんじん――皆は、「森林さん」と呼ぶ。

 

 セックスという秘め事を職業にする者たちは、それだけでリスクを背負っている。社会や家族からも攻撃されることもあるし、身近な人間を傷つけることもあるだろう。

 でも、だからこそ、私は彼らが不思議だった。

 私は多くの男優を知るわけではないことは断っておく。私の知るのは、代々木忠監督の元から育っていった男優たちという偏りはあるけれど――私の接した「AV男優」という人たちは、おそらく世間のイメージとは違う。

 礼儀正しく、腰が低く、挨拶がきちんとできて、人当りがよくて、謙虚で、優しい。そのへんのいっぱしの「社会人」よりも、遥かに社会性を持ち、また人間的魅力に溢れる人たちだ。

 彼らに接する度に、疑問が沸き立つ。あなたたちならば、他の仕事をしても、十分通用するでしょうに。けれどなぜ、こんなリスクの高い、肉体を使うゆえに将来性のない職業に就いているのですか、どうしてそこにたどり着いたのですか、と。

 

 「AV男優・森林原人」――彼の名前は知らなくても、顔を見たことがある人は多いはずだ。売れっ子の人気男優と言っていいぐらい、彼はあちこちの作品で活躍している。そうしてお呼びが多いということは、信頼されているということだ。セックスの能力もさながら、彼自身の人柄を賞賛する声も少なくない。

 

 

 3月半ば、渋谷道玄坂のラブホテルにて、話を聞いた。

 その場所を選んだのは、セックスの匂いのする部屋で、セックスを仕事にする人と、対峙したかった。

 現れた森林原人は、相変わらず爽やかで礼儀正しく、おしゃれで、「好青年」という言葉が、相応しい。きっと彼に対しては、誰もがそういう印象を抱くだろう。

 

 

 

 

森さん⑦

 

 

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