花房観音 -Hanabusa Kannon-

情交未遂

あなたの話を聞きたい、あなたのことを知りたい、誰も知らないあなたを、私の言葉で書き残したいーー言葉でまぐわいたいのです

作家&コラムニスト・勝谷誠彦

なぜ戦う、なぜ生きる

2014年7月28日   インタビュー:花房観音   写真:木野内哲也   場所:渋谷のんべえ横丁他にて

 

 

 

 なぜ戦うのかという問いは、なぜ生きるのかと問うているのと、同じだ。

 一人の男が拳を突き出す姿を見て、そう思った。

 

 

 東京の若者が集う街の何の変哲もないビルの細い急な階段を上がりガラスの扉を開くと、白髪交じりの53歳のボクサーが一心不乱にトレーニングをしていた。

 8戦7敗1勝のボクサーは、週に4回、このジムに通っている。

 彼は何と戦っているのか、どうして戦うのか、なぜ戦いをやめないのか。

 

 

 その男の名は、「勝谷誠彦」――。

 

 

 リングの上だけではない。彼は、いつも戦っているように見える。精力的な執筆、講演活動、メディアへの出演、毎朝、午前10時までに5000字を超える膨大な情報量のメールマガジンが365日欠かされることなく読者に届けられる。

 政治、酒、食に旅などの著書も多く、サンテレビの人気番組「カツヤマサヒコSHOW」にて、あらゆるジャンルのゲストを招いて繰り広げられるトークは、幅広いジャンルの知識と教養をうかがい知ることができる。

 日本写真家協会所属のカメラマンでもあり、小説家でもあり、コラムニストでもあり、世界を駆け巡るジャーナリストでもあり、テレビのコメンテーターでもあり、また吉本興業所属の文化人でもある。

 討論番組やワイドショーでのイメージは「舌鋒鋭い辛口コメンテーター」だろうか。コラムやメールマガジンでもその膨大な知識と情報量に基づいた容赦ない刃は振り下ろされ、時には批判され炎上し、敵もつくる。

 メディアを通した「勝谷誠彦」は、怒り、戦う男だ。「怖い」と恐れる人も少なくない。

 喋り、書き、世界を股にかけて自ら動き続ける――異常という言葉を使いたくなるほど精力的に活動するそのエネルギーは、どこからくるのか。

 

 

 実際に「勝谷誠彦」に会うと、酒が好きで、酒場を愛し、人と語り合うのが好きな、情のある、まっとうな人だという印象を受けた。

 情があり、まっとうだからこの人は怒るし、戦うのではないのだろうか。

 

 

 けれど驚くほど「欲」を感じない。

 性欲、自己顕示欲、物欲、名誉欲、権威欲……あらゆる欲が見えない。欲が少ないのではなく、そもそも存在しないようにも思える。

 今さらだが、自分も含め表現活動をする人間、メディアに出ようとする人間は、欲の強い人種だ。その欲の形はさまざまではあるけれど、河原に埋もれる誰も見向きもせぬ石ではなく、宝石のように輝きを発してやろう、人の目に留まろうと叫ぶがごとくに欲で動く。

 ほとんどの人間の活動のエネルギーの素は「欲」なのに、彼にはそれを感じられないのが不思議だった。

 あるいは私の知らない、欲を超越したものが、「勝谷誠彦」を動かしているのか――。

 

 

 なぜ戦い、なぜ生きる。

 どうしてそこまで走り続けているのか。

 

 

 それは私自身が、ときおり自分に問う言葉でもある。生きることを、戦うことを、どうして降りられないのか。降りてしまえば、諦めてしまえば、平和で穏やかな人生を送れるのに、傷つかずにすむのに、と考えない日はない。

 

 今までどこにも書かれていない、誰も知らない「勝谷誠彦」を知りたくて、この極私的なインタビューサイト「情交未遂」への出演依頼をしたら、快く引き受けてくれた。

 

 7月、雨の狭間の曇りの日、蒸し暑い東京で、話を聞いた。

「せっかくだから見学する?」と声をかけられ、ボクシングの練習風景を見学したあと、渋谷のんべえ横丁で撮影し、そのあとカメラマンの事務所で話を聞いた。

 

 

 ビールを飲んで喉をならし、勝谷誠彦は「何でも聞いていいよ」そう言った。

 

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