AV監督・カンパニー松尾
君がいるトーキョーなら素敵だ
2015年1月13日 インタビュー:花房観音 写真:木野内哲也 場所:HMJM、劇場版テレクラキャノンボール2013に登場するマンションの屋上にて
――テレキャノももちろんこんなヒットする前提で作られたわけではないのですが……映画も今、厳しいです。特にミニシアター系の映画って、東京では入っても地方惨敗というのはよく聞きます。関西で宣伝も手掛けている映画ライターの田辺ユウキさんと話したときに、関西の入りは東京の十分の一だと憂れいておられました。私もそれは、東京で満席立ち見で話題になっている映画が京都で公開されたときに監督舞台挨拶とかもあるのにガラガラという状況に何度も遭遇しました。
なのに、テレキャノに関してはそうじゃなかった。京都みなみ会館であんなに人が入ったのは驚きました。
「分析って後付になっちゃうけど、twitterで信頼している人や友達が観に行ったから……でも行くかな?」
――いや、今、本当にみんな映画館まで足を運ばないですよ。だから不思議です。
「見た感じ、普段映画館に来ないような人が足を運んでくれてたりする、特に女性客。なんなんだろう?」
――私が20代の時って、ネットも無かったしこんなふうに公にAVを女が観るなんてありえなかった。
「でもテレキャノは特殊。女性客多いけど、AV観てる感覚ではないでしょう。サブカルの範疇も超えてますしね」
――次回作は?
「劇場版BISキャノンボール2014。テレキャノは大きくなったけど、あれは毎年やるもんじゃない。それに年月が経ったほうがおもしろい。同じメンバーじゃなくてももっと老人化がすすんで、俺も目が悪い耳が悪い病気持ってるってステージに行って、あの老人たちが宇宙を目指す映画とかあるじゃないですか。それに近い状況じゃないと面白くない。BISの解散をテレキャノにあてはめてという話をいただいて、これから相手も違うし、できるなと受けたんです。おもしろくなりましたよ。テレキャノ2013のヒットが監督たちみんなに火をつけて自信にもなりましたし、口惜しさもあるんじゃないですかね、あれだけのパフォーマンスを発揮してて順位が上がらなかったという。それが今回、BISには発揮されてて、こいつらレースがわかってきたな、と」
――テレキャノは男性じゃないと成立しないと思うんですよ。女は裏で駆け引きもするし、どう見られるか気にするから本音もカメラの前ではなかなか言わない。1対1のAVならともかく同性同士だと正直になりにくい。あれは男……いえ、男の子ですね。馬鹿なことしてるのが面白い。女はあそこまで馬鹿にはなれない。馬鹿過ぎて、妙な感動があります。
「俺も強引に感動ものにはしてるかもしれないですね、後半は」
――また、登場する女性たちがすごい。それは以前のテレキャノからそうです。インパクトが強い女性ばかり。未だにテレクラがあることがまず驚きました。今、これだけネットが興隆してて、それでもテレクラで出会いや援助交際相手を求める人がいるのは、何かやはりそこでしか生きられない人たちの場所なんだろうなと。
あと、周りで観た人たちの感想を聞くと、多かったのが「監督さんたちが、優しい」でした。
「優しい、かな」
――世間が抱いているAV監督のイメージと違ったのかもしれません。あんないいお兄ちゃんたちだったのか、と。
「裏表で言えば、どんな人間でも裏表はありますが、撮影において優しくは徹底してるでしょうね。ドキュメンタリー監督ではなくてAV監督だから女性がいないと成り立たない。その気持ちは重々ある、得点を稼がなきゃいけないし問題を起こすのは致命傷。いかに目の前の女性を引き立てるかに全精力を注ぐのはわざとじゃなくて、癖でしょうね。梁井は優しいというよりもフラットだし、みのるは優しく見えるからモテる」
――あの、みのるさんの口の上手さというか喋りはモテるでしょうね。
「みのるはちんこが強くないから俺たちができるハメ撮りができない。優しく見えるけど超マグロ男、ギャル男」
――ですよね、みのるさんがAV監督としてデビューされた頃とか、昔、ブログよく読んでたんですが、作品も……手コキの人というイメージがあります。
「みのるはギャル男だけど元ヒモだからAV監督である以前に人間として女性に対してのスキルが高い。一瞬にして目の前に女性にどう接したらいいのかわかる。女性に対して最高のホスピタリティを与えて自分はお金を接種するということを長年できた人。その能力は僕らより圧倒的にある。俺らに対してもホスピタリティを発揮する。そういう男だから、格上なんです」
――松尾さんに対しても、他の監督さんたち、男優さんや女優さんと接して、いつも考えてしまうのは「どうしてこの人たちは、この世界にいるんだろう」っていうことです。リスクの高いセックスの世界にいなくても、この人たちなら他の世界でも立派に仕事ができるんじゃないかとか。
野暮な疑問ですが、それは私は自分自身への問いかけなんです。私は小説家になる前、文章を書いて初めてお金をもらったのがAV情報誌でした。それから小説家になろうとして幾つか公募して、たまたま団鬼六賞を受賞して官能を書くようになった。けど、AV誌に書こうとか官能を書こうとか、考えたこともなかった。官能なんてデビュー作が初めて書いたもので、自分に書けるとも思ってなかった。私自身は意図しないのに、いつも気が付けばそっちにいる。AVも性的な文章も好きだけど、自分が生業にするつもりはないのに、どうしてもそこから離れられない。
正直、官能を書くことで不愉快なことを言われたり見下されたりもあるし、わりと最近まで官能やめようとか迷走していました。でも、だから「どうして自分はここにいるんだろう」ってずっと思ってるし、AVの世界にいる人たちに対しても問いかけずにはいられないんです。
「俺の場合でいうと、ぬるま湯だし、いいことしかないから」
――家族とか、そういうのは気にしない?
「親とか家族のことは1対1で解決すればいいし、そりゃあできない問題もあるけど。想像力が強すぎたらできないと思うんですよ。俺は楽天家だし、1対1で解決したらそれから先のことは見ない。これから起こるか起こらないかの想像力をそれ以上働かせたくない。鈍感で楽天的なんです。想像力があると抑止力が働くでしょ。俺はそのネジが抜けてる。リスクとかいろいろわかってて本当に覚悟を決めてやってる人もいるでしょうけど、想像力がないほうがやりやすいですね」
――確かにそうですね。女優さんとか、「バレて周りに広まる」とか考えてたら、できないですよね。いざバレると開き直れる人もいるでしょうけど。
「俺に言わせるとこの世界は、ぬるま湯だしあんぽんたんばっかりだけど、そういうのが好きなんです。気質みたいなものかもしれない。小さい頃から人が真面目になればなるほど笑ってしまう。卒業式とかしんどかった。校長先生が真面目に話しているの見て、どうしてこの人こんなかっこつけてるんだろうって笑ってしまう。そういう性格なんです」
――松尾さんて、怒りはないんですか?
「ないですね、あんぽんたんなんで」
――前に、東良さんが、松尾さんは鬱にならないって言ってた。
「ならないですね。怒りも悲しみもない」
――作品には悲しみがあるのに(笑)。
「悲しんでるふりです」
――メンズナウの雨宮まみさんのインタビューで発言されてて驚いたんですけど、松尾さんて「寂しい」と思ったことがないんですか? あんなに寂しい作品を撮ってるのに。
「ないですね」
――松尾さんとセックスする女って、終わったあとでひどく寂しくなるんじゃないかって作品を観てて思うんですよ。
「そうかもしれないけど、鈍感なんでわかんないです」
――AVって基本的にオナニーするための物だけど、松尾さんの作品はオナニーじゃなくてセックスをしたくなる。誰かと肌を合わせたい、ひとりでいたくない……寂しさを喚起させるんですよ。だから当事者の女の人はたまんないんじゃないかなと勝手に想像しています。
「そこはわかんないけど、女性でも、ただ身体を貪りあうように求めあって、終わるとバイバイってのが、俺には成立しているように見えるけど、成立してないんですかね」
――してるかもしれないけど、してないかもしれない。わからない。ただ私が観てて、寂しく感じるだけで。
「かもしれないってことを俺は想像してない。自己中だから、楽天的だから。寂しいと思わないし執着もないです」
――それは悟りですか。
「悟りではないですね」
――以前、淫語魔さん(AVプロデューサー、淫語研究家)が、ブログに「カンパニー松尾は虚無の穴」って書いておられて、あれは私、ハッとさせられたんです。だからこんなに寂しくなるのかって。
「それが一番あってるかも」
――その虚無の穴の正体は何でしょう?
「自己分析はできないけど、どっかで諦めてるのかな。でも編集は頑張るし、こだわりがないとか言いながらこだわるし。でも執着はないですね」
――有名になりたいとか、文化人になりたいとか、そういう野心もないですよね。
「有名になるのは困ります。文化人なんてとんでもない。だって文化人じゃないもの。チンポでセックスしている、そのポジションが好きだから、AV監督が一番いい。だってお金もらってセックスして編集して褒められたりするんですよ、意味わかんない。高級風俗逆バージョンじゃん。そりゃセックスを介在して作品、作品ていうか好きなことして人にお見せするんだから、頑張りますよ。でもそれでお金までもらって、感動したとまで言われるんだからね、AV監督が一番いい」
――松尾さんをヒーロー視してる男性はいると思う。男の憧れの存在として。
「実感はないですけど、本人とは別に、そういうAV監督をずっと続けられていることに憧れてもらったりとか、カンパニー松尾になりたいって言ってもらうのは嬉しい。俺は二面性はないけど、俺もカンパニー松尾というのを無理しない程度にやり続けて、仕事にかこつけてやってるのかもしれない。それはまあ、ちょっと、わかんない。でも、あんまり言いたくないけど、俺は人の20倍働いてきてる。大げさではなく、会社にいる時間だけは誰にも負けない。効率は別にして編集機の前に座っている時間は誰よりも長いです」