花房観音 -Hanabusa Kannon-

情交未遂

あなたの話を聞きたい、あなたのことを知りたい、誰も知らないあなたを、私の言葉で書き残したいーー言葉でまぐわいたいのです

作家&コラムニスト・勝谷誠彦

なぜ戦う、なぜ生きる

2014年7月28日   インタビュー:花房観音   写真:木野内哲也   場所:渋谷のんべえ横丁他にて

 

――今日、見学させていただきましたけれど、ボクシングはいつはじめられたんですか。

 

「9年前。最初はね、ちょっと身体動かそうかと思うぐらいだったんだけど、やるうちにはまって人生観が変わった」

 

――具体的には?

 

「スポーツで騒ぐ人って、わからないとこがあった。阪神ファンではあるけれど、あくまで客観的な阪神ファンであって、だけどボクシングをやってみて、なるほどスポーツはある種、人生をかけるに値するものだなと思った。それとやればやるほど上達するものをはじめて知った。ゼロからはじめて、しかも僕、すごい運動音痴で、小学校のときに野球やるのに、とりあいジャンケンポンで、勝っても勝谷いらんて言われたぐらいひどかった。子どもにとってはそういうのすごいショックで、それぐらいダメなやつだったんだけど、ボクシングはじめて少なくとも平均より上に行けるようになった」

 

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――勝谷さんにとっての、ボクシングの良さって、なんですか。

 

「個人技であること、そのくせ自己満足じゃない、相手がいる。なんと言っても人を殴って逮捕されないこと、究極の競技ですよ。そのために極めて厳密にルールを科さないと危ない、だからすごく厳しいし礼儀正しい。ここまで肉体を酷使するスポーツもなかなかない。つまり、ここまで肉体の酷使をアマチュアでもできる競技はない」

 

――週に4回って、すごいですよね。さきほど見学させていただいても、ストイックさを感じました。

 

「あのジムでも練習時間が一番長いんじゃないかな」

 

――試合にも出ておられるんですよね。

 

「4年ぐらい前から出はじめて、1勝7敗。この前なんかね、ノックアウトされて大の字になりましたよ」

 

――そこまで負け続けてもやめないんですね。

 

「T-1君をはじめ、みんな次こそ勝たねーかな、勝って引退してくれねーかなって思ってるんだろうけどね」

 

――怖くないですか。

 

「怖いですよ、実際に怪我も何度もしてるし。人と殴り合って怖くないなんてことはない。ただ、8戦目にもなると、落ち着いてます。メンタルトレーニングの本とかいっぱい読んでるし、普通のアマチュアよりはいろいろインプットされてる。イメージトレーニングもするから、夢の中でジャブ繰り出して、実際に手が動いてびくっとして目が覚めることもある」

 

――これからどうしたいとか、ありますか。

 

「ないのよ、僕は、常にない。今、すっごく自由なのよ、これ以上の自由はないぐらい自由。食うにも困らないし、今はお金をもうけるというより、ボランティアみたいなことしてるほうが多い。サイン会だって、そう。だからそんなに忙しくないんだけど、人のために何かするのが好きなのよ。血気酒会もそうだし、サンテレビの『カツヤマサヒコSHOW』だって、わりとそう。いろんな人を呼んで、もちろん有名な人が来てくれるのは嬉しいけれど、それだけじゃなくて市井で頑張ってる学者なんかをあそこに呼んで世の中に知らしめるのが好きなんだよね。稼ぎはほどほど他で稼げばいいか、ぐらいだよ」

 

――私も二度出演させていただいた『カツヤマサヒコSHOW』ですけれど、あれはある意味、夢の番組というか……話をしたい人を読んで呑んで話してって楽しそうですよね。

 

「そうそう、楽しい。自分たちが楽しいだけじゃなくて、視聴者もお店も喜んでくれている。あれを中央の局でやると上手くいかないかもしれないけど、あの番組がこれから地方局に買われていくのが僕は楽しみ。地方から中央を包囲してやろうと。地方のほうが僕のコアなファンがいるしね」

 

 

 何度も彼の口からでる「お坊さんみたい」という言葉で、ふと気づいたことがある。

 ボクシングのトレーニングも、日々の執筆、講演等の活動も、まるで僧の修行のようだ、と。

 比叡山の千日回峰行という過酷な修行の映像を観たときのことを思い出した。7年間に渡る荒行に励む僧の姿は祈っているというよりは、何かと戦っているように見えた。実際に千日回峰行を達成した阿闍梨の話を聞いたこともあるし、私自身も永平寺で参禅体験を通して雲水たちの修行を目の当たりにして、常人には真似できぬその様子は、やはり戦っているという印象を受けたのだ。

 けれど彼らの瞳が見つめているものは、人でもなく世界でもない。ただそこに存在するもの、目に映るものをあるがままに邪心なく眺めているような――。

 戦ってはいるけれど、挑んではいない――だから修行をして鍛錬に励むほどに、その目は澄んでいく。

 そうして手にしたものは、おそらく、肉体の、精神の、「自由」だ。

 

 勝谷誠彦の口から出た「自由」という言葉が、なぜ戦うのか、生きるのかという問いの答えのようにも私には思えた。

 

 53歳のボクサーは、拳を突き上げ続けることを、まだまだやめはしない。

 

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                                                                                 (文中敬称略)

 

* 機材協力:SIGMA DG HSM 24-70mm

勝谷誠彦

1960年 兵庫県生まれ。私立灘高校を経て早稲田大学第一文学部文芸専攻卒。
1985年 文藝春秋社入社。記者として活動。綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人などの国内の事件やフィリピン内乱、若王子事件、カンボジア内戦、湾岸戦争などの国際報道を手がける。1996年退社。
その後 コラムニストや写真家として活躍。食や旅のエッセイで広く知られる。
現在 「SPA!」の巻頭コラムを始め、雑誌に多数連載を持ち、TV番組では「カツヤマサヒコSHOW」(サンテレビ)、「スッキリ!!」(日本テレビ)レギュラーコメンテーター、「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「あさパラ!」(よみうりテレビ)の準レギュラー出演など。
『ディアスポラ』(文藝春秋)『平壌で朝食を。』(光文社)などの小説のほか、評論「坂の上のバカ」(扶桑社)、対談「日本人の『正義』の話をしよう」(アスコム)等、著書多数。
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