ごあいさつ
毎度のことながら、ばたばたしているうちに一年が終わろうとしております。
今年は、昨年の11月に出た「女の庭」(幻冬舎)が思いのほか売れたおかげで、仕事や出会いに恵まれた一年でした。
嫌なことやつらいこともあったし、しんどくて泣いたことも何回かあったけれど、それでも今まで生きてきて、最高に「光」を浴びた年でした。
何よりも、安くない私の本を購入して読んでくださった読者の方や、こんな誰やわからんやつと一緒に仕事をしましょうと声をかけてくださった編集者さんたちには心の底から感謝しております。
私は子供の頃から、本が好きでした。
大人になっても本に心を揺り動かされ続けてきました。
小説以上に素晴らしいものはないと思っています。
私がかつて読んで心を揺り動かされた小説を世に送ってこられた出版社様や編集者の方たちと、今度はつくる側となり一緒に仕事をしているのだと、ふとそのことに気づいたときに、なんて幸福なんだろうと思いました。
今年は、文庫版の「花祀り」、「おんなの日本史修学旅行」、「女坂」、「萌えいづる」、「恋地獄」と、5冊の単著と3冊の共著を出すことができました。
こんなご時世にたくさん本を出せるなんて、ありがたいのひとことにつきます。
つくづく思うのは、小説を書くのは孤独な作業だけど、本を出版するというのはひとりでやっていることではないのだということ。
一冊の本には、いろんな方が関わってくれているということは、小説家になって初めてわかったことかもしれません。
小説は売れないと言われています。
それは痛感します。
私だって、いつまで、こうして本を出したり、お仕事をいただいたりできるかわかりません。
数年後にも本を出すことができたら、それだって奇跡かもしれないと思っています。
永く小説を書き続けるにはどうしたらいいかということを、最近よく考えています。
私は自分に才能があるとは思わないし、信じていません。
決して強運の持ち主ではありません。
そんな人間が、永く小説を書き続けるためにできることはなんなのかと、探り続けています。
けれど、今年の夏に直木賞を受賞された桜木紫乃さんに言われた言葉が全てなのだとも思います。
「私たちは馬で、編集さんが騎手なんだよ。だから私たちは前を向いて走り続けてたらいいんだよ」
その言葉を聞いたときに、ああ、その通りだと腑に落ちて、ものすごく楽になりました。
前を向いて走り続けるだけなのです。
来年、前を向いて走り続けていくことができたなら、何か見えてくるかもしれません。
嫌なことやつらいことや不安なことや悲しいことが多い世の中だからこそ、人には「娯楽」が必要です。
娯楽がなくても生きていけるけれども、楽しい人生を送るためには必要なことです。
生きてくためには身体の栄養もだけど、心の栄養も必要です。
小説も映画も音楽も私にとっては、心の栄養で、それがなくてはつらくて死んでしまうかもしれない。
そんな「心の栄養」である小説の世界に身を置けることを何よりも幸福に思います。
世の中がどんなふうになるかわからないけれども、それでも生き続けるための方法を模索しながら、来年を迎えます。
みなさま、よいお年を。
来年も、よろしくお願いいたします。