仕事が絶賛行き詰り中なので(いつものことですが)、同じく苦しんでいる同業者を見て憂さ晴らしをしようと思い、恵文社コテージでの芥川賞作家・藤野可織さんと翻訳家の藤井光さんのトークを聴きにいきました。会場に行くと作家の谷崎由依さんもいらしてました♡
テーマが「黒くわらえ」で、藤野さんの短編集「おはなしして子ちゃん」について語られていたのですが、「おはなし~」の中には、2話、猿が出てくる話があります。ちなみにどちらも私、かなり好きな話です。
それで猿の話になって、藤野さんが「私は猿が嫌い。恨みがある」とおっしゃってました。
その話をききながら、「あれ……猿……? 私も過去に、猿と何かあったような……」と、数年すっかり忘れていた出来事を思い出してしまったのです。
あれは大学生のときです。大学の学生課で紹介された、何かしらの工場の単発アルバイトに行った際のことです。そ…の工場が、伏見の桃山御陵の近くだったので、私はバイトが終わって、ふらっと桃山御陵に行ったのです。
すると……私の目の前に、猿がいました。
猿と、ばっちり目が合ってしまったのです。
「あ、目が合った」と私が思った瞬間に、その猿は私にとびかかってきました。
逃げる間もなく、猿は私を攻撃してきて、伸ばされた手でジーンズの上から膝の横を引っ掻いたのです。
私は悲鳴をあげたかったのですが、声が出ませんでした。
それでも何とか逃げて帰ってきました。
帰宅し、ジーンズを脱ぐと、猿の爪がジーンズを引き裂いて肌に傷が出来ていました。でも血はほとんど流れてなかったし、痛みもそんなではなかったので放置しました。
その一週間後に、新聞に「桃山御陵に猿出没、注意せよ」という記事が載りました。
当時のバイト先の人たちには猿に襲われた件を話していましたので、新聞記事を見て大爆笑されました。
「京都市内で猿に襲われる女子大生はあんまりいないぞ」と……。
その傷ですが、化膿するとか全く無かったのですが、そのまま傷口は残りました。
「これ、猿に襲われた傷やねん」と、人に見せると、結構受けるので、昔はネタにしていたような気がしますが、ここ数年は、すっかり猿のことも傷のことも忘れていました。でも、この「猿に襲われた話」が、いつのまにか「猿と戦った話」になっていたこともありました。
なのに、この夜、藤野さんの「猿が嫌い」話を聞いて、久々に記憶の蓋が開いたのです。
終演後、藤野さんにその話をすると、
「その経験を元にして、猿にやられた話を書いてください」
と、言われましたが、「猿にやられてはいません!」ときちんと訂正しました。襲われただけです。今日はジーンズだったので、今度スカートを履いているときに傷を見せると藤野さんに言いました。
さきほど帰宅して、確認すると、やはり傷はありました。
20年前、猿に襲われた傷です。
希望者がいらっしゃったら、機会あればお見せします。
女性と、面識ある知人男性限定で。
おそらく私が一生背負うであろう、猿に襲われた傷です。
これからはこの傷と共に生きていこうと決意しました。
「猿に襲われた作家」として……。
(猿の話・完)
*これだけ読んだら、何のトークショーなんだ、猿について語り合ってたのかと思われるでしょうが、藤野さんの小説論は面白かったですよ。